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ピーター・ウェーバー監督『終戦のエンペラー』


終戦のエンペラー 陛下をお救いなさいまし (集英社文庫)終戦のエンペラー 陛下をお救いなさいまし (集英社文庫)
(2013/05/17)
岡本 嗣郎

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「河井先生はどこいった!?」

これが、観おわって最初の感想でした。
エンドロールがながれるや、「えーっ!ここからだろー!」と
さけびたくなったのは、ぼくだけじゃない…とおもいたいのですが。

夏季休暇をとったので、
おそくなったけど、きょう映画をみようとおもいたち、
原作となるノンフィクション、
岡本嗣郎『終戦のエンペラー〜陛下をお救いなさいまし』を、きのう買って、
ゆうべからけさのうちに読了しました。

原作は、2002年5月に単行本発行(その翌年に作者は他界)。
内容については、文庫版のウラの紹介文を引用します。

「第二次大戦終戦後、天皇の戦争責任が問われる中、
 連合国軍最高司令官マッカーサーに
 天皇不起訴を進言する覚書を提出した副官ボナー・フェラーズ。
 その際、彼が助言を求め、信頼した人物のひとりが河井道だった。
 敬虔なクリスチャンである河井は、
 平和を志す女子教育に情熱を傾ける教育家だった。
 戦後日本がたどる道を決定づけた二人の、
 運命的な出会いと絆を描くノンフィクション」


冒頭の「河井先生」というのは、上記の河井道のこと。
この原作の、まさに主人公といっても過言ではありません。
東京都多摩市にある、恵泉女学園大学の創設者として知られる人物です。
(ググったら、生稲晃子や国分佐智子も、短大の卒業生だそうですね)

原作は、作者の岡本氏が、
河井先生の教え子や関係者ら、存命のひとたちにインタビューをし、
その発言と資料をもとに、
河井先生がどのような人生をおくったのか、
学校での河井先生はどのようなひとだったのか、
フェラーズ准将とのかかわりはどのようなものだったのか、
事実と推論をくみあわせながら、ひもといていくというもの。

神職の父と、はたらき者の母にそだてられた河井道は、
函館のミッション・スクールで、あの新渡戸稲造にまなび、
アメリカ留学ののち、1929年に恵泉女学園(のち大学)を設立しました。

軍部が台頭する、戦争まっただなかの時代にあって、
講堂に「鬼畜米英」などのスローガンや、御真影は一切かざらない。
制服をきめず、生徒の自由な服装にまかせる。
憲兵隊や警察ににらまれようと、キリスト教の教育をやめない。
その一方で、天皇への敬意をはらい、傷病兵への救援物資をおくる。

「イエスとノーをはっきりいえる人間におなりなさいまし」
「結婚しようがしまいが、自分の足できちんとお歩きなさい」
「女が少しばかり学問に励んだからといって家事ができないなどというのは恥です」
「古いものの中に新しいものは求めていけるのです」


時代の最先端をいく教育家であり、伝統を重んじる日本女性。
かたくなすぎるほどのクリスチャンだけど、ユーモアはわすれない。
現実をしっかりと見すえながら、情熱だけでどこまでもつっぱしる。
わかりやすいカテゴライズができない、たいへん魅力的なキャラクター。
(これほどの豪傑なのに、注射によわいという萌え要素まであるとは!)

文庫版で350ページをこえる分量の原作を、
ぼくがほぼ一夜で一気に読んでしまったのは、
おそらく、この河井先生の魅力によるところがおおきいでしょう。

それなのに、ああそれなのに。
映画版には、河井先生のかの字もありゃしない。
これほどおもしろいキャラクターを消してしまうとは、どういう了見ですか。
60代のおばあちゃんじゃ、ロマンス劇のヒロインにならないってことですか。
やっぱり若い娘のほうがエエのんか。キレイなオネーサンが好きですか。
…あ、初音映莉子に文句をいってるわけでは決してないですよ、為念。

映画では、マッカーサーとともに来日したフェラーズ准将が、
通訳の高橋に行方をさがさせていたのが、英語教師のアヤ(初音映莉子)。
アメリカ留学中にフェラーズと出あってフォーリンラブ、という展開です。
史実では、フェラーズはなんとかして河井先生と話がしたいと、
アメリカ講演会ツアーで多忙な河井先生に、なんどもアタックしていたのですが。
(恋愛感情じゃなく、日本のことを知りたくて、そして敬愛の念をいだいて)

くわえて、戦前に来日していたフェラーズ准将が、
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の作品に傾倒していたことや、
八雲なきあとの小泉家と懇意にしていたことも、バッサリカット。
もともとフェラーズ准将の日本観・天皇観は、
八雲の作品によるところがおおきいのですが、
そこをいれておかないと、ライバル?リクター少尉のいうように、
ホレた女のために日本びいきになった、とみられても仕方がない気もします。

ラブ要素をいれないと客がはいらない、という配慮からかもですが、
正直これは、いらなかったんじゃないのかなあ…。
とおもうのは、ぼくが日本人で、しかも原作を先によんだからでしょうか。

パンフレットより、奈良橋陽子プロデューサーいわく、

「基本的には日数の経過や当時の状況など全部史実に基づいています。
 フェラーズのラブストーリーに関しても、
 当時の日記に残された文章のニュアンスから想像するに、
 恋人に会いにきていたんだろうなあと想起できましたし。
 ですから、
 映画としてフィクションをむやみに膨らませたということはありません」


岡本嗣郎氏の原作にも、フェラーズ准将の手紙が引用(和訳)されていますが、
天皇不起訴工作に関するもの以外では、
GHQで神経すりへらして仕事をするのがしんどくて、
早くアメリカにかえりたいと、妻に弱音をはいているものや、
思春期のだいじな時期にまったく会えないでいる娘に、会いたいとねがう文面が、
内容としてはおおかったと見うけられました。

そりゃあ、ながく単身赴任でいたら、
現地妻のひとりくらい、つくりたくなるかもわかりませんが、
イヤイヤ不倫愛をそこまで前面におしだすのもいかがなものか。
と、ふりかえってみれば、フェラーズ准将に家族がいる描写はなかったような。
うーん、そこをかくすっていうのはどうかなあ…。
(終戦後にアヤは◯◯◯◯たから、結果的に不倫にはならないけれども)

あと、映画のながれでは、

・マッカーサー、フェラーズ准将に10日間での調査を指示
 ↓
・フェラーズ准将がマッカーサーに(天皇不起訴についての)覚書をわたす
 ↓
・マッカーサー、天皇本人と話ができるよう、フェラーズ准将に指示
 ↓
・マッカーサーと天皇の会見

となっていたのですが、これは史実に反します。
ただしくは、

・1945年9月20日、吉田茂外相が総司令部を訪れる
 マッカーサーに、天皇が訪問することについて、意向を打診
 「陛下のご都合のいい日に。ただ、アメリカ大使館のほうがいいかと」
 ↓
・1945年9月23日、フェラーズ准将と河井道、一色ゆり(河井の教え子)会食
 席上でフェラーズが、
「天皇の処遇について、マッカーサーへの意見書を書くので、目を通してくれ」と、
 河井に頼む
 ↓
・1945年9月25日、ニューヨーク・タイムズのクルックホーン記者が天皇に謁見
 記者「天皇は、真珠湾奇襲を事前に知った上で宣戦詔書に同意したのか」
 天皇「宣戦詔書をそう使うとは予期していなかった(=東條が独自にやった)」
 ↓
・1945年9月27日、天皇一行がアメリカ大使館を訪れる
 マッカーサーと天皇の記念写真撮影・会見
 同日午後、フェラーズ准将、意見書の草稿を恵泉女学園へ届けさせる
 ↓
・1945年9月29日夜、フェラーズ准将と河井、会食
 河井、草稿の添削内容を伝える(内容は不明)
 ↓
・1945年10月1日、フェラーズ准将、手直しした意見書を恵泉女学園へ届けさせる
 河井、OKを出す
 ↓
・1945年10月2日、フェラーズ准将、マッカーサーに覚書を提出
 クルックホーン記者への天皇の回答を引用、天皇不起訴を進言

となります。
このあたりは、映画のながれとしてうまくおさまるように、
脚本で改変されたのではないでしょうか。

・主人公(フェラーズ准将)にミッションがいいわたされる
 ↓
・相棒(通訳高橋)とともにミッション開始
 はじめはうまくかみあわないふたり
 ↓
・壁にぶつかり(証拠がみつからない)ミッションをあきらめようとする主人公
 ↓
・相棒がきっかけでやる気復活、ミッション再開
 ↓
・ミッション完了
 上司(マッカーサー)から認められる
 相棒とうちとける

こういうながれが、教科書のようにしっかりとできています。
よくできたバディ・ムービーといいましょうか。
この土台となる生地のうえに、お客さんの目をひくような、
おいしいクリーム(ラブ要素)をまぶして、ケーキ(映画)をつくったと。
最後は主人公の主張がとおって、ハッピーエンド。

お客さんが、感情的には「よかったよかった」と満足するとしても、
昭和天皇の戦争責任についてとか、
日本の歴史における天皇と行政府の関係とか、
日本兵がなにをもって名誉とするかとか、
そういうところは、ホントにつたわるものなのでしょうか。
原作本の271ページより。

 その情緒の部分、日本人の心情にわたる文学的表現が、
 学者肌のフェラーズの面目であると同時に、
 河井の助言をあおいだ部分に違いないという気がする。

 なぜならフェラーズが、天皇をいかに概念的に理解しようと、
 日本人の心情のひだに生きる天皇という存在の微妙さは、
 アメリカ人の彼にはついに手の届かない領域だと思うからだ。


対日心理作戦の指揮をとるほど、日本に精通していたフェラーズ准将であっても、
河井道に、何度も天皇について質問をなげかけています。
膨大な時間をかけて、やっとフェラーズ准将が結論づけた内容を、
2時間たらずの映画だけで、心から理解できるとは、かんがえにくいところです。

ですから、この作品は、あくまでも、
歴史を知ろうとするきっかけづくりになれば、とおもいます。
「あれはどういうことだったんだろう?」という疑問を、
映画館からかえったあとで、じぶんでしらべてみるための、とっかかりとして。
とはいえ、やはり河井先生がでてこないのは、おしいなあ…。

以下、感想あれこれ。

◯終戦直後の東京を再現した美術がすごいです。
 さらに、皇居周辺の撮影は、映画としてはじめてとのこと。
 …あれ?『太陽を盗んだ男』で皇居前広場にバスがつっこんだシーンが…。
 あ、あれは無許可でしたか。

◯昭和天皇役は、片岡孝太郎。
 うしろすがたの第一声をきいたときは、鳥肌がたちましたね。
 たちふるまいもふくめて、さすがの演技です。

◯関谷貞三郎役、夏八木勲さんのすがたに涙。

◯近衛文麿(中村雅俊)がフェラーズ准将に対峙していうセリフ、
 「日本はあなた方をお手本にしただけです。なにが違いますか?」
 このあたり、アメリカ人の観客はどう見るのでしょうね。興味があります。

◯東條英機については、あまりふかくはふれず。
 ぼく個人としては、フェラーズ准将が米内光政に、
 「東條に全責任を負わせろ」と指示した、1946年3月6日が、
 映画のクライマックスになりそうだとおもうのですが…。
 で、弁護人を通じてそのかんがえを知り、
 「陛下を守るために陛下を裏切る」意志をしめす東條、と。

◯『日本のいちばん長い日』クーデター話キター!
 あれはもう、あの映画をそのまま引用してもよかったのに!
 「陸軍の狂信者」というなら、黒沢年雄や天本英世の怪演を見せたいですよ。
 あと、阿南大臣がちょっとものたりない。
 やはり『日本の〜』の三船敏郎ばりのカリスマがほしいところですね。

まとまりませんが、このへんで。
ともあれ、河井先生を主人公にした映画を、だれかつくりませんか?
これほどのおもしろい存在をほったらかしとくなんて、もったいない!
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