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『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』


半藤一利と宮崎駿の 腰ぬけ愛国談義 (文春ジブリ文庫)半藤一利と宮崎駿の 腰ぬけ愛国談義 (文春ジブリ文庫)
(2013/08/06)
半藤 一利、宮崎 駿 他

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8月3日、Eテレの『SWITCHインタビュー 達人達』で放送された、
映画『風立ちぬ』をめぐる両者の対談を、文春ジブリ文庫でまとめたものです。

番組は1時間でしたが、
半藤さんのあとがきによると、実際の対談時間は、
前後2回あわせて、7時間あまり!
(半藤さんが『風立ちぬ』を見るまえと、見たあとにわかれています)

「あ、この発言は番組で出てきたゾ」(←表記マネ)
と気づくところがそこかしこにあり、サクサク読みすすめられますが、
当然ながら、番組ではカットされたはなしのほうが、たくさんあります。

さすがに年季のはいったミリオタ…あ、いやいや、
知識と教養をかねそなえたおふたりのはなしは、
「ほうほうなるほどなあ」とうなるものがあり、たちまち付箋でいっぱいに。

(P29)
宮崎 朝鮮戦争が始まると、あちこちにあった空襲のガレキがあっという間に消えたそうですね。
半藤 蔵前橋の西側、蔵前工業高校に山のように積まれてあった戦災の焼けトタンがあれよあれよという間に消えたのをおぼえています。軍需資材として使われたのでしょう。米軍からの特需でクズ鉄の値段が急騰したんですね。ですから朝鮮戦争というのは、戦後日本をある意味では救ったのですが、いっぽう日本の自然をぶっ壊す最初のきっかけだったのではないかと思います。

(p99)
半藤 要するに(引用者注:ワシントン海軍軍縮条約で)つくりつつある日本の軍艦が机上で山ほど沈められてしまった。そのため計画で準備していた鉄と工員さんが大量に余っちゃった。それを何とかしなきゃいけないということで、隅田川に橋がバンバンと架けられたんですよ。
宮崎 軍艦や空母の代わりに橋がつくられたのですね。隅田川の橋は、比較的最近になってできた新大橋(昭和52年竣工)を除けば、みんな立派な鉄の橋です。

風が吹けば桶屋が儲かる、といいますが、
歴史上のことがらが、こうやってつながっているのかと知るのは、
とてもおもしろいものですね。

学校の歴史の授業では、
政治は政治、経済は経済、文化は文化、と項目ごとにページがわかれていて、
なかなかそれらをひとまとめにして、つかうことができませんが、
このおじいちゃんたちのはなしは、
あっちこっちにはなしがとんでいくけど、それがたのしい。
その時代がどういう時代だったのか、を、
歴史の生き証人のことばで、
しかも、じぶんの経験プラス、おおきく全体を見るところからも語れるという。
直接はなしをきいていた関係者がうらやましいです。

さて、映画『風立ちぬ』については、
内容とあまり関係のないところで、場外乱闘がおこっているようですが、
とりあえず宮崎監督のはなしをきいてみましょう。
主人公・堀越二郎について。

(p138)
宮崎 私の父と堀辰雄の、最初の結婚の境遇は似ていますが、あの頃は結核だらけですね。ほんとうにすごく多かった。そしてあの病気は、死病だったんですね。似た境遇の三人が重なって、ぼくは堀辰雄と堀越二郎と自分の父親を混ぜて映画の堀越二郎をつくってしまいました。もうどのへんが境かわからなくなっています。

(p164)
宮崎 けっきょく堀越二郎という人の正体はつかめませんでした。まあ、つかむ必要もないとも思った。ですから、出身地がわかっても調べに行かない。その風景は見に行かない。もう見ない、聞かないって、あるとき決めました。
半藤 たしかに堀越さんの本を読んでも、その人物像は浮かび上がってはきませんね。

(p225〜226)
半藤 昭和16年(1941)生まれなら戦災のあとが、はっきり脳裏に焼き付いてるでしょうね。
宮崎 昭和23年(1948)、24年、25年、そのころに見た風景は、自分のなかに鮮やかに残っています。映画のなかに出てくる堀越二郎の生家の、廊下のある木造二階建ての邸。あれはぼくが育った家の姿なんです。

宣伝ポスターでは「堀越二郎と堀辰雄に敬意を込めて」とあり、
事前の情報で、このふたりをミックスして主人公をつくったのは知っていました。
が、さらに宮崎監督の父親もふくまれていたのですね。
それなら、劇中でこれでもかとタバコをのんでいたのもわかります。
(宮崎監督の父親も、わかいころから喫煙者だった旨、本書にあります)

ぼくはてっきり、あのタバコは宮崎監督じしんを投影したものだろうと。
戦争がどうなろうと、家族をふくめ周囲の状況がどうなろうと、
ひたすらじぶんの夢をおいもとめて、ただただ邁進する芸術家。
しかし、宮崎監督が投影していたのは、じぶんの父親だといいます。

(p221〜222)
宮崎 ですから、主人公の堀越二郎は、時代の生臭さをニュースで聞いて知ってはいる。しかし、名古屋にいる一飛行機技師にとって、それは肉眼で見たものではない。彼は毎日設計事務所に行って、まじめに一生懸命仕事をしている。と、そういうふうに限定したんです。世界がいろいろ動いていてもあまり関心をもっていない日本人。つまり、自分の父親です。あのミルクホールの給仕の娘がかわいいとか、今度封切りされた映画が面白いとかって言っていた人たちが生きていた世界。
半藤 当時日本人のほとんどは、そうでしたよ。それが、持たざる国、日本の昭和なんですよ。民草は食うのに一生懸命。
宮崎 まさにほとんどの人が刹那的でした。それで、そういうふうに描くしかないと思ったんです。ドキュメントをやってくださる人はいっぱいいますから、それはお任せしておいて、ぼくはやっぱり親父が生きた昭和を描かなきゃいけないと思いました。

あの時代において(映画の)堀越二郎が特別な存在だったわけではなく、
それぞれの場で、それぞれの役目をはたしていた日本人は、
みなおなじように、じぶんのことで一生懸命であったのだと。

のちの世を生きているぼくたちは、
大所高所から、あの戦争を、あの時代を、俯瞰して見ることができますが、
そのまっただなかにいたひとたちが、はたしてそうであったのか。
それは、いまのじぶんたちが、さらにのちの世のひとたちに、
どう見られているか、どうかたられているか、ということでもあるでしょう。

航空技術者という役職ゆえか、はたまたその性格のゆえか、
「凡人ならぬエリートだから、あんな言動になるんだ」
「一般人であるわたしたちは、かれに感情移入できない」
「演技が棒すぎる。だからジブリの映画は(略)」
と見られてしまう(映画の)堀越二郎ですが、
かれもまた、あの時代を生きた、ひとりの日本人であるのはまちがいありません。
(最後のはちがう?)

「この映画は、正しい戦争のとらえかたをしていない。だから問題だ」
「病気の女性のとなりでタバコをすうとはなにごとだ。けしからん」
「そもそも堀越二郎はタバコをすわないそうじゃないか。ウソつくな」

世の中的に正しい(とされる)ものしかみとめないのって、
窮屈というか、息がつまるというか、正直しんどいというか。
…なんてことを書くと「おまえは犯罪を助長するのか」とかいわれそうですが。
そういうことではなくてですね。

(p218)
半藤 くどいようですが、『草枕』はアニメにはできませんか。やっぱりだめですか。
宮崎 アニメーションというのはけっこう不便なものでして、嘘をついてもいいやと思えるものはいいのですが、嘘ついたとたんに怒涛の如くいろんな抗議が出てきそうなものは難しいです(笑)。漱石はまさにそれですね。「オレの漱石になにをするッ」と、そういう怒りをヤマほど買うことになるでしょうから。
半藤 ああ、そういう輩はたくさんいそうですね。いわゆる漱石オタク。
宮崎 いっぱいいます。零戦の52型どころじゃないと思います(笑)。

映画にかぎらず、ひとつの作品において、
ひとつの大ウソをつくためには、そのほかは厳密でなければならない、
とは、だれのはなしか、わすれてしまいましたが。
しかし、そのために、作品を鑑賞するぼくたちが、
鵜の目鷹の目で、眉間にシワをよせてみたって、おもしろくありません。

そっちのほうは、そういうのがすきなひとにまかせておいて、
(ぼくもそういう作業が、決してキライなわけではありませんが…)
おおまかにポイントをつかんで見る、というのも、
たまにはいいのかもしれませんね。

ところで、なぜに本書、『腰ぬけ愛国談義』というタイトルなのか。
きっかけはここ。

(p77)
半藤 日本は脇役でいいんです。小国主義でいいんです。そう言うと、世には強い人がたくさんいましてね。そういう情けないことを言うなと、私、怒られちゃうんですがね。
宮崎 ぼくは情けないほうが、勇ましくないほうがいいと思いますよ。
半藤 「腰ぬけの愛国論というものだってあるのだッ」と声だけはちょっと大きくして言い返すのですがね(笑)。へっぴり腰で。
宮崎 ええ、ほんとにそう思います。いいですね、腰ぬけ愛国論か……。

あの時代と現在がかさなるなか、
さて、ぼくたちはどう生きていけばよいのか。
かんたんに、十把一絡げに、すぐに見つかるこたえはないでしょうが、
ちょっとはヒントになることが、この対談のなかにあるかもしれません。

あ、それから。
宮崎監督版で『草枕』映画化という、半藤さんの提案に一票。
実現はむずかしいでしょうが…。
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