スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のおんな』


猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)
(1951/08/25)
谷崎 潤一郎

商品詳細を見る

ツイッターには、やけにねこ好きがおおいような気がします。
ぼくがフォローしている著名人でも、
日がな一日、愛猫サバ美さんのすがたを写真にとっている坂本美雨さん。
かいねこの「給仕係」を自称し、語尾にもれなく「にゃ」をつける江川紹子さん。
ねこ偏愛ツイートを連発する、マンガ家の羽海野チカさん、樹るうさん。

ぼくじしんは、これまでねこ(をふくめペット)を飼ったことがありません。
ねこ好きの心理とはどのようなものなのでしょうか?
それを疑似体験できるのが、文豪・谷崎潤一郎による本作です。

文庫版で120ページていどの、すぐに読み終えられる作品。
文体がとてもかろやかというのか、とても読みすすめやすいです。
登場人物は、タイトルにもある庄造と、前妻の品子、現妻の福子、
そして、庄造が飼っている、メスねこのリリー。

(p45〜46)
リリーの顔は丈が短かく詰まっていて、
ちょうど蛤を倒まにした形の、カッキリとした輪郭の中に、
すぐれて大きな美しい金眼と、神経質にヒクヒク蠢めく鼻が附いていた。


(p47)
一番可笑しいのは怒る時で、
小さい体をしている癖に、やはり猫なみに背を丸くして毛を逆立て、
尻尾をピンと跳ね上げながら、脚を踏ん張ってぐっと睨まえる恰好と云ったら、
子供が大人の真似をしているようで、誰でもほほ笑んでしまうのであった。


もうこの時点で、
「ああ〜リリーちゃんかわいい〜!」となってしまうねこ好きさんも、
もしかしたらいるかもしれませんね。

いちおう、人間3人の三角関係がものがたりの縦軸ではあるのですが、
この世界の中心は、まさにリリー。

福子は、庄造がいまの妻であるじぶん以上にかわいがっているリリーに嫉妬。
庄造は、品子の要求をのんでリリーをひきわたすも、ようすが気になって不安。
品子は、リリーをめあてに庄造がじぶんのもとをおとずれるだろうと期待。

まず冒頭で、人間のおんなよりも、ねこのほうがヒエラルキーが上だとしめされます。
福子がきらいなアジの二倍酢を、庄造がリリーにたべさせるようす。

(p23)
亭主が猫を喜ばすために、女房の嫌いなものを食膳に上せる、
而も自分が好きなふりをして、女房の手前を繕ってまでも!
これは明かに、猫と女房とを天秤にかけると猫の方が重い、と云うことになる。


これを見て、福子がかわいそうと同情するか、
それとも「なに言ってんの、あたりまえのことじゃない」ととるか。
ツイッターのねこ好きさんたちは、おそらく後者でしょう。

ぼくがもっている文庫版のオビで、小池真理子さんが、
「愛猫を膝に載せ、いったい何度、読み返したことか」と推薦している文章がこれ。

(p126)
「リリーや、どうした? 体の具合悪いことないか?
 毎日々々、可愛がってもろてるか?」


品子がいないスキに、こっそり品子の部屋にはいり、リリーに再会した庄造のセリフ。
ねこ(にかぎらずなにものか)に隷属することの幸福、をあらわしたシーンです。

いちばんツボにはまったのは、リリーと、かのじょをひきとった品子のくだり。
妻であったじぶんをさしおいてかわいがられていたリリーに対して、
品子は決して好感をもっていませんでした。
リリーをひきとったのも、前述のとおり庄造をとりもどすための作戦だったのです。
リリーのほうも、庄造に対するほどには、品子にはなつきませんでした。

ところが。
いちどは品子のもとからにげさったはずのリリーが、夜中にもどってきたシーン。

(p76〜77)
これはまあ一体どうしたことか、
彼女が呆れているうちに、
リリーはあの、哀愁に充ちた眼差でじっと彼女を見上げながら、
もう胸のあたりに靠れかかって来て、
綿フランネルの寝間着の襟へ、額をぐいぐいと押し付けるので、
此方からも頬ずりをしてやると、顎だの、耳だの、口の周りだの、鼻の頭だのを、
やたらに舐め廻すのであった。

突然、たまらなく可愛くなって来て、
「リリーや」
と云いながら、夢中でぎゅッと抱きすくめると、
何か、毛皮のところどころに、冷めたく光るものがあるので、
さては今の雨に濡れたんだなと、初めて合点が行ったのであった。


こっ、これがツンデレというやつなのかっ…!
反目しあっていたものどうしが、ふと心をゆるしあう瞬間。
ここで悶絶した、ねこ好きさんもいるはずです。

みじかいものがたりのなかで、人間のバカバカしさやおろかさをえがき、
かつ、ねこのために生活をふりまわされることを本望だとおもわせてしまう。
いちどふみこんだらもどれない、麻薬のような作品だとおもいます。

ところでこの作品、森繁久彌・山田五十鈴・香川京子で映画化されているとか。
一刻もはやくパッケージ化されることを要望します!

スポンサーサイト

トラックバック一覧

コメント一覧

コメントの投稿

名前

タイトル

メールアドレス

URL

本文

パスワード

非公開コメント管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。